劇団☆新感線 『蜉蝣峠』

とにかくこれを楽しみに、いろいろがんばってきた。笑

大阪千秋楽のチケットが取れたので、母と二人で観劇。

席は残念ながらB席3階でしたが、

全体を俯瞰することができたのでかなり楽しめました。

ここから先は相当マニアックな内容になりますので、ご了承を。笑




観終わってすぐは…新感線にめずらしく、物足りなかった。

なんで?っていう箇所が多すぎた。

これは作がクドカンだからでしょうか…

人間関係が多すぎるのに、それぞれの描写がかなり薄い。

だからラスト、意に介さない展開が多すぎたように感じて。

特に、なぜ銀ちゃん(勝地涼)がサルキジ(木村了)を殺したのか。

これだけは、何度考えてもわからない。

クドカンは細かいセリフやボケシーンの中にも主題をしのばせる、

なんて言われていますが、それにしても…な展開で。

それでもどこかのブログで「すべてはカゲロウだと考えると納得」

というのを読んで、少し理解できた気はします。


銀ちゃんが男としての象徴を失くして、遊女のお菓子ちゃんとして生き、

それでもまだ自分が男と女の間で迷って生きていた。

そこに現れたサルキジに特別な感情を抱き始め、

やっと女としての自分を受け入れられそうになっていた矢先に

知ることになったサルキジが「実は女」という事実。

男と女としてお互いが入れ替わったらいい、というサルキジに、

銀ちゃんはやっと受け入れられそうだった自分をつぶされたのかも。

銀ちゃんの体は、元は男。

でも象徴はないから、完全な男には戻れない。

かといって、女の体になったわけじゃないし、なれるわけでもない。

サルキジはただ男装していただけの女、だから体は女。

男装さえやめれば、いつでも女に戻れる。

銀ちゃんは自分がどこにも属せないことをサルキジに突きつけられ、

「走ってたサルキジが好きだった」と言って殺してしまう。

男と女の間をゆらゆら揺れる陽炎みたいな自分を、

女のサルキジに愛されるわけにはいかなかったんじゃないか、と。

自分に女としての覚悟を持たせてくれたサルキジにだからこそ、

自分の前を常に走っていてほしかった。

ましてや『男の銀之助』に引き戻すようなことはされたくなかった。

それと同時に、陽炎な自分に失望もした。


考えすぎか。笑

それでも、そう考えると自分の中で辻褄が合うんです。

一説によると、闇太郎(古田新太)を救うため、という話もありますが、

冒頭シーン以外でほとんど闇と銀の絡みがない。

ということで、闇太郎のために銀ちゃんがサルキジを殺すとは考えにくい。

じゃないと、殺したサルキジのマントを纏って去っていかないでしょう。

それも、サルキジが走っていたように走りながら。


と、こう考えることで自分の中でなんとか合点が。

これだから演劇学専攻は…たまに邪魔になる。笑

いろんな人のセリフの中に、

「ある体(てい)で」「ない体で」「見えそうで見えない」

「見えない目で見える」「仮の姿」「陰に隠れて」

という、二面性のある言葉がたくさんあって。

これが、見えたり見えなかったりする陽炎であり、

見えていても体の透き通っている蜉蝣でもある、

二つの「カゲロウ」を指し示すものなのかな、と。(これまた深読み)


まぁたぶん、クドカンの下品すぎる下ネタが気に食わなかったんでしょう。笑

あまりに衝撃的な下品さで、ドン引きしてしまった…

普段の中島かずき新感線では、下ネタでもせいぜいお色気。

露骨な下ネタは、イヤだった…苦笑

パンフレットも、特に勝地くんのページが露骨に…

いや、かっこいいんですけどね、勝地くんは…笑


堤真一は、色気がすごかった。

着物の裾さばきが奇麗で、執着心の強い無骨者が素敵でした。

高岡早紀は、あのかわいさが逆に怖い。

血みどろの街の中で一人可憐なままでいる怖さが際立ってた。

勝地涼は、難しい役どころ。

無邪気なのにたまに発する毒が、刺すよう。

木村了は、物語を反転させるきっかけ。

女に戻ってからの生き生きした表情が、結末をより悲惨にさせる。

梶原善は、とにかくうますぎる。

ストーリーテラーの役割が、最後に見せる反乱が怖い。


劇団員の高田聖子、橋本じゅんのカップルが最高でした!

20年近く同じ劇団なのに、今さらあんなにチュッチュする夫婦を…

どんな気分なんだろうか…笑

セリフごとにチュっとしたかと思えば、次の瞬間には離婚騒動。

尻に敷く女房役、尻に敷かれる旦那役には、二人とも天下逸品ですね。

コメディー要素を担った夫婦だけに、ラストの悲劇が際立ってました。

あのイチャイチャぶりは、中島かずきには書けないか…

ドキドキしちゃって、オペラグラスで直視できなかったです。笑


古田新太は、もうとにかく貫禄。

闇太郎がまさに闇の中でもがくのが、切なすぎた。

記憶がなくて、やっと見つけた記憶の断片が

なくした自分の記憶によって壊されてしまう。

高岡早紀演じるお泪(るい)にすがりつくシーンは、

本当に涙が出てきてたまらなかった。

「あんたが俺の唯一の記憶なんだろ」と言いながら泣く。

テレビでのアホな役しか知らない人には、ぜひ観てもらいたい。笑

ラストはとにかく、闇太郎が切ない。陽炎に呼びかける闇太郎が。


こう書いてみると、意外とこの作品を気に入ってる自分がいる…笑

下ネタに拒絶反応を示したものの、

あとから考えれば考えるほどいろいろ滲み出てきて、

千秋楽だけじゃなくてもう数回観ればよかった、とも思って。

演出がおもしろい箇所が何か所もあったし、

演劇ではやりにくいと言われるミスリードも効果的だった。

それだけに、3階席からの1回だけの鑑賞では物足りなかったのかも。

ただやっぱり、少し関係性に欠けるところがあるような気がして…

もう1時間延ばしてでもいいから、描きこんで欲しかったです。

ただ、前半はちょっと間延びしてた感があったので、

珍しく時計の時間を気にしてしまったり。


それでも、新感線というカンパニーのすごさを思い知った舞台でした。

次回作、『蛮幽鬼』に期待ですね。

ところがこれ、出演者が豪華すぎて…

上川隆也、稲森いずみ、堺雅人、そして早乙女太一。

早乙女太一ファンのおばちゃんたちが殺到することが予想されます。

ああ、どうしよう…チケットの競争率が…

それに古田新太が出ないんですよ…うーん、さみしい。

それでも初日付近に東京にいることがわかってるので、

東京→大阪という夢のスタイルを実現できるかもしれません!

ということで、チケット運に懸けたいと思います。

あー、やっぱり新感線!


長々とお付き合いくださいまして、ありがとうございました。笑